次に、アカウントプランの「お客様情報」 のなかで大変重要な「組織図・パワーストラクチャー」について述べます。
なお、ここで例示する「組織図・パワーストラクチャー」は、実際に存在する複数の大手企業の公開情報を基に作成した「架空のもの」です。
「組織図」は、初めは単なる組織図(例:お客様のウェブサイトに記載されている、ピラミッド型やツリー型のもの)から始まる場合が多くありますが、そこに日々の営業活動から得た、
お客様に関する情報を付け加えて、営業活動に役立つ内容にしていきます。
●お客様情報については、お客様の「意思決定プロセス(発注の手続き・決裁権限=決裁金額・会議体 等)」を調べ、営業パーソンが関係するビジネス案件に関して、関係する組織・人物・手続きを明確にします。
例えば、
「初期投資または5年間の累計投資額1億円以上の案件は、毎月第一月曜日に開催される役員会議で、
承認されなければならない。そのための決裁文書は、付議される役員会議の3週間前に、役員会議の事務局に提出しなければならない。」というような詳細度の情報です。
意思決定プロセスに関しては、お客様の事務上の稟議・決裁プロセスを知るだけでなく、以下のような、
個別案件のステークホルダー(利害関係者)についても、情報収集を行います。
●ここで、重要な考え方は、お客様=企業=組織 ということです。
一般的に、アカウントプランが対象とするのは企業(しばしば従業員1,000人以上の大企業)であり、お客様の組織の内部には常に、役職・役割・立場に応じた「個々人の思惑がある」ということです。
お客様の企業規模が大きくなるほど、この「個々人の思惑」が、お客様の最終的な意思決定を左右する
場合も多い、という事実です。
●お客様社内のビジネス案件・プロジェクトに関する ステークホルダーの例
1.購買に責任を持つ主管部門(全社的システムであれば情報システム部門)、主管部門における
担当者・プロジェクト責任者(管理職)
2.エンドユーザー部門(システムの利用部門)、エンドユーザー部門の担当者・責任者(管理職)
3.情報システム部門・エンドユーザー部門の 担当役員
4.財務部・経理部・経営企画部等、いわゆる管理部門の担当者・責任者
5.役員会議による決裁案件の場合、社外取締役を含めた、役員会議出席者
6.役員会議の意思決定に影響を与える可能性の高い監査役や顧問 等
●ここで言う「組織図」とは下記のようなものです。
これも、大きな単位(○○本部・XX部 等)については、上場企業に関しては、お客様のウェブサイト上に記載されていることも多くあります。
そうではない場合には、
・お客様のウェブサイト上の、アニュアルレポート・有価証券報告書等から、独自に作成する
・訪問を重ねて情報収集し、独自に作成する
・お客様自身から入手する などの方法があります。
アカウントプランとしての実践上のポイントは、
「当初は未完成で良い・情報が少なくても良い」として、徐々に充実させていく、ということです。
これは、組織図に記載されている個々人に関する情報についても、同様です。
●次に、お客様の「パワーストラクチャー」 について、述べます。
お客様情報については、個別案件のステークホルダー(利害関係者)について触れましたが、
営業パーソンからみた場合には、
①お客様個々人の、「役割」・「自社(営業パーソン)への対応」・「意思決定の傾向」
②お客様同士の、「協力・対立関係(利害関係)」・「心理的影響関係」 等についても、
注意を払う必要があります。
そこで、営業活動を進めつつお客様の属性情報(経歴・性格・価値観・家族構成・趣味嗜好 等)を集めて、「営業パーソンからみたステークホルダーに関する情報」を組織図に付加したものが、「パワーストラクチャー(権力構造)」です。
お客様社内の意思決定に際しては、更に「Inner Circle(組織内部にあって特定の利害関係・影響関係を持つ非公式の集団)」 が影響を与えます。
これは、例えば「学歴・出身校(中学・高校・大学)・出身地域」「(出向・合併等に際しての)出身元企業」「事業・業務での、共通の経験(〇〇社への営業で共に苦労した・共に△△プロジェクトに携わった)」「新入社員時代の師弟関係(いわゆる Tutor ・ Mentor)」「入社年次(同期入社・〇年先輩)」等、様々な要素が元になって「意思決定や行動に、影響を与える(与え合う)、人間関係・利害関係のある非公式のグループ」です。
●営業パーソンからみた ステークホルダー分析の例
「パワーストラクチャー」の作成に際しては、様々な表現がありますが、例えば下記のような記号を定義して、「ステークホルダーに関する情報・分析」を組織図の中に埋め込んでいきます。
ここでも重要なことは、「徐々に充実させていく」ことですが、必ず「期限=締め切り」を設けて、のちに述べるアカウントプランの一部である「アクションプラン」に明記して、営業活動を行うことです。
◆役割
●営業活動やアカウントプラン・営業シナリオの作成に際して注意しなければいけないことは、「お客様の企業としての意思決定に関わる、これらの役割は、必ずしも表面的な役職の通りとは限らない」という事実です。
お客様社内の組織上は決定権が無い人物が、役職上の Decision Maker に信頼されていて、その人物が事実上の Decision Makerに匹敵する役割を担っているような場合です。
・Decision Maker(意思決定者) :発注先ベンダーの選定に関して、最終的な決定権を持つ人物。
・Key Person(重要人物):ベンダーの提案を評価して、ベンダー選定に関して Decision Makerに
強い影響力をもつ人物で、一人とは限りません。
・Influencer (影響者・オピニオンリーダー) :発注先ベンダーの決定権限はありませんが、
Decision Maker やKey Personから意見を求められたり、社内世論を形成するような人物です。
情報システムテクノロジー全般や、特定分野(セキュリティ対策・クラウド技術・仮想化技術 等)の
技術動向に詳しく、社内で一目置かれている人物です。
・End User:情報システム・製品・サービスを利用する部門や個々の利用者です。
営業部門・人事部門・経理部門等、特定の部門がユーザーである場合には、
社内的にはシステム費用の負担をする部門(スポンサー部門)となり、発注先ベンダーの選定に
強い影響力を持つ場合があります。
◆自社への対応
●「自社への対応」に関する判断で重要なことは、自分が判断したことの「証拠(Evidence)・理由を、第三者に対して示せる」ことです。これは、例えば、社内で営業担当者から上司が報告を受けた際に、上司がその報告の信ぴょう性を判断する根拠・理由として、担当者の示す「証拠(Evidence)・理由」を活用できる、ということです。
この「証拠(Evidence)・理由」は、例えば、「お客様のA課長がB部長に、XX月XY日に提出したベンダー評価表に、ベンダー〇社・△社・□社と当社の比較があり、当社は実績に関する評価がX点で、総合評価でも次点候補の〇社よりも XX点高いことを、XZ日にA課長から示された書類によって確認した」というようなことです。
・Anti:情報提供・助言等 競合他社に有利に対応する
・Neutral:特定のベンダーに有利に対応しない・中立的
・Favor:情報提供・助言等 自社に有利に対応をする
・Sponsor:自社に有利に対応し 意思決定に関して一定の権限・影響力を持つ
・Unknown: 情報がなく対応が不明
◆意思決定の傾向
●「意思決定の傾向」に関しても、「自社への対応」と同様に、「証拠(Evidence)・理由を、三者に対して示せる」ことが極めて重要です。
これは、例えば、「お客様のA課長が、『B部長は、社内で威勢の良いビジョン重視の発言ばかりしているが、現実のベンダー採用に関しては、B部長が昔から知っている、既に取引のある企業を継続して採用するだけで、若手の意見を聞いて新規参入を認めるような意思決定をしたことが一度も無い』と、A課長が常々不満を漏らしていることを、A課長の部下であるCさん・Dさんから、会議後の雑談で複数回確認した。」というような具体的な事象です。
但し、こうしたことは、立場の異なる複数の人物から得た情報で判断することが必要で、できれば資料やメールなどの物理的な裏付けを取ることが、重要です。
例えば上記の例では、更にサーベイを進めた結果、「お客様のB部長は、『ビジョン重視は本当で、常に理想的なシステム構築を目指したがるが、B部長の上司であるC執行役員が、常にそれに反対して、既存の取引先を優先するようにB部長に指示している』という事実が、A課長の部下のE課長代理から届いたメールから確認された」という場合、Cさん・Dさんからの情報だけでは、B部長に関する判断を誤っていた、ということです。
・Visionary:ビジョン・理想形を重視する傾向(例:新しい事例・技術を採用することに熱心である)
・Conservative:保守的・保身的な傾向(例:自分の考えは明言せず、上司の意向に常に従う)
・Realist:現実的・実利的な傾向(例:新技術に興味は示すが、バグの少ない「枯れた技術」・「導入実
績」を重視する)
・Unknown:情報がなく不明
●下記は、「パワーストラクチャー」の例で、先ほど述べたような記号を使って、
組織図に営業活動のための重要な情報を追加しています。
●下記は、「パワーストラクチャー」に、更に「Inner Circle」に関する情報を追加したものです。
お客様に関する営業上の重要情報を、組織図に付加して「関係者間で情報を共有する」ことで、 アカウントプランの運用に際して極めて重要な、
・「チームセールス」
・「自社やパートナー企業を含めた、自社のあらゆるリソースを活用した戦略的な営業活動」
の実践に近づきます。
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